誰かの話。02
「あの頃、まだ私が可愛かった頃の話よ?
アイディアが溢れる程に出て来て、
とにかく浮かんだものを描いていったの。
デザインは学んだものの、作る技術も必要だと思って、
彫金の学校にも通った。
寝る暇も無いくらいだったけど、
溢れるものを止める事が出来なかったし、
夢中だった。
始めは自分で考えて、作って、ってやっていたけれど、
だんだん追いつかなくなって来て。
賞も戴いたりするようになって、
私の作品を良いと言って下さる方も増えて、
1人じゃ回せなくなって来たから、
職人を雇った。
自分でも作る事をやっていたお陰で、
おかしいところがあれば分かるし、
こだわりもあるから、雑にされていると分かるから、やり直させるし。
でも最近はダメね。目が悪くなって来て。
浮かんだものを描いて、作って、売って。
売る事は本当に大事。
そのために作ってるんだもの。
お客様に実際に身に付けて貰って、意見を貰ったり、
ああ付けてみるとこうだな、って、自分でも分かったり。
現場での意見は貴重だし、
次に作る時の参考になるから。
お客様の笑顔を見ると、また頑張ろうって思えるじゃない?
でもその行程全部を1人でこなすって、
もうこの規模になると無理なのよ。
だから振り分けてお願いしているし。
私は作る事に集中したいの。
買って下さるお客様もいるんだから。
そのためにあなたを選んだのよ。」